大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)407号 判決

控訴人訴訟代理人は「原判決中控訴人に関する部分を取消す。控訴人に対する被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言付控訴人敗訴の判決の言渡ある場合には控訴人のため担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において「(一)本件賃貸借の期間は、階上については昭和二十五年八月一日以降、階下については同年十一月一日以降各三ケ年間であるとの被控訴人の主張事実に対し、控訴人はこれを認めたのであつて(被控訴人及び控訴人がそれぞれ原審で陳述した昭和二十八年八月十六日附及び昭和二十八年十一月六日附各準備書面の記載参照)右約定期間が三年であることは当事者間争ない事実である。しかるに原判決はこれに反して期間の定めなきものと判断したのは違法である。(二)被控訴人は昭和二十六年九月中、本件家屋を代金百二十五万円で訴外佐久健蔵に売渡し、即日金六十万円の支払を受けて同年十月末日限り引渡す旨を約したものであつて、右売買契約の成立と同時に、本件建物の所有権ひいて、本件賃貸借関係も同訴外人に移転承継せられ、爾後被控訴人は右所有権並びに賃貸人たる地位を喪失したのであるから、本訴明渡の請求が所有権に基くにせよ、賃貸借の終了を原因とするにせよ、いずれも失当である。(三)解約または更新拒絶の正当の事由は、その当時存在し且つ口頭弁論終結に至るまで存在することを要すると解すべきところ、原判決は、爾後に発生した田中今乃が自分で招いて転居の機会を逸したことをも、正当事由の有無の判断の一資料としたのは違法である。(四)被控訴人が予備的請求の原因として主張する家屋明渡契約の成立は、これを認める。そして右契約によれば控訴人は、金二十二万円の支払を受けると同時に昭和二十八年八月末日限り、本件家屋を被控訴人に明渡す義務を負うに至つたものであつて、右契約において何等の留保はないから、他の事由による明渡請求権を抛棄する趣旨を包含するもので一種の和解契約である。従つて被控訴人が右和解契約に定める以外の事由によつて本件家屋の明渡を求める第一次の請求は失当である。」と述べ、被控訴人訴訟代理人において「被控訴人が予備的に主張する建物明渡に関する契約は控訴人主張のような趣旨のものではない。」と述べた外は、原判決事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人が被控訴人の実兄保阪貫一から、山梨県北巨摩郡韮崎町二千二百十四番地所在木造瓦葺二階建塗内造店舗兼住宅一棟建坪二十一坪五合外二階十二坪五合(原判決添付目録記載の建物一棟)の内階上南側八坪を、昭和二十五年八月一日以降期間三ケ年の約で賃借し、次いで同年十一月一日右賃貸借の目的物に同建物階下南側六坪但し間口二間奥行三間の部分及び便所一坪を加えその他前賃貸借と同一条件で賃借し現にこれを占有していることは当事者間に争がない。(期間の点に関する被控訴人の主張事実に対する控訴人の認否は必ずしも明確でなかつたが、この点控訴人は当審において被控訴人の主張を争わない旨を明確にした。)

そこで前記賃貸借契約成立当時、一部右賃貸物件を構成する前記建物が、前記貫一若しくは被控訴人のいずれの所有に属していたか等の点を審究するに、この点に関する当裁判所の判断は原判決の説示(記録第一九五丁裏十一行目以下同一九八丁裏十一行目まで)と同一であるから、この部分をここに引用する。

してみると被控訴人は、昭和二十六年九月五日本件建物の所有権を取得すると共に、前示賃貸借の賃貸人たる地位を承継し、控訴人との間に前示内容の賃貸借が存続するに至つたものと謂うべきである。

そして右賃貸借の期間に関し階上南側八坪については昭和二十五年八月一日以降、階下南側六坪と便所一坪については同年十一月一日以降各三ケ年であることについては控訴人の自認するところであるから、前者については昭和二十八年七月末日、後者については同年十月末日限り満了すべきものなるところ、被控訴人は控訴人に対し昭和二十七年九月二十七日送達の本件訴状を以て更新拒絶の通知をした旨主張するから、この点につき按ずるに、本件訴状が昭和二十七年九月二十七日控訴人に送達せられたことは控訴人の認めるところであつて、右訴状の記載内容によれば前記期間の更新拒絶については明言するところはないにしても、仮りに被控訴人と控訴人との間に本件建物につき賃貸借が存続するものとしても、解除その他の理由により失効したとしその明渡を求め、右賃貸借の存続と相容れない主張をしていることは明らかであるから、若し右賃貸借にして期間の定めある場合には、その期間の満了後は賃貸を継続しない意思の通告をも、右訴状によつて表明したものと解し得べく、また右訴状には更新を拒む正当の事由につき何等具体的の記載はなされていないが、更新拒絶には正当の事由の存することを要するも更新拒絶の通知自体にはかかる事項をも具体的に併せて通告しなければならない形式上の制限あるものでなく、更に右更新拒絶の通知の時期についても、右訴状送達以来本訴繋属中である事跡に照らし、借家法第二条所定の期間満了前六月以上一年以内になされていることに帰着することも明らかである。

よつて右更新拒絶が正当の事由に基くかどうかを検討するに、当裁判所は、原判決が本件賃貸借を以て期間の定めないものとし、前記訴状の送達によつて解約の申入があつたことを前提として、右解約の申入の正当の事由の有無に関して説示するところと同一の理由(記録第二〇〇丁裏一行目以下同第二〇三丁表八行目前段まで、ただし後記掲記の部分を除外)によつて、右更新拒絶につき正当の事由あるものと判断する。尤も控訴人は原判決の説示中、期間満了後に発生した原審共同被告田中今乃が自分で招いて転居の機会を逸した事情をも認定して、これを正当事由の有無の判断の一資料としていることを非難するが、当裁判所の見解によれば、右正当性の有無に関し原判決の認定した諸般の事情中、本件賃貸借更新拒絶による効果発生後、即ち期間満了後に生じた事項と目せらるべき点、即ち前記原判決の説示中記録第二〇二丁表十行目以下、「……なお本訴提起後においても昭和二十八年六月頃から土地の有力者を介して……」から、同二〇二丁裏十行目「……自ら招いて転居の機会を失つたに等しい」までに記載されている事実を除外した、他の当事者双方につき存する諸般の事情によつても、優にその正当事由の存在を肯定し得るものと判断する。

してみると本件賃貸借は、階上南側八坪については昭和二十八年七月末日限り、階下南側六坪及び便所一坪については同年十月末日限り終了したものと謂うべく、控訴人が右期間満了後なお使用収益を継続しているのに対し、賃貸人たる被控訴人が遅滞なく異議を述べていることは、本訴提起以来なお訴訟繋属中の事跡に徴し明らかであるから、控訴人は結局現在従前の賃借部分については賃借権を有せず、被控訴人に対しこれが明渡をなす義務あることは明らかである。

なお最後に控訴人主張の爾余の抗弁につき判断する。

(一)  被控訴人が昭和二十六年九月中本件家屋を訴外佐久健蔵に売渡し、現にその所有者でなく、また右所有権移転に伴い賃貸人たる地位を離脱したから、所有権に基くにせよ賃貸借終了を原因とするにせよ、被控訴人の本訴請求は失当であるとの控訴人の主張については、原判決も説示する如く、原審証人保阪乙女の証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)によれば、昭和二十六年九月頃被控訴人は訴外佐久健蔵との間に、原判決にいわゆる(B)不動産(この中に本件建物も含まれる)につき売買契約を締結し、一部手附金を受領しているが、右売買契約は売主において居住者に立退を求めて、これが完全な引渡のあることを停止条件としているのであつて、未だこの条件が成就されない中は目的物の所有権は売主に留保せられ、残代金の支払を受けることができない約旨であることが認められるから、被控訴人は右売買契約によつて本件建物の所有権を失い、賃貸人たる地位を離脱したとする控訴人の主張は、理由がない。

(二)  被控訴人が本訴第一次の請求が理由ない場合の予備的請求の原因として、昭和二十八年八月二十日控訴人等は被控訴人に対し金二十二万円の贈与を受けることを条件として本件家屋を明渡すべき旨を約諾した事実を主張したことは、原判決の事実摘示の記載によつて明らかであるところ、控訴人は当審において右予備的の主張事実を認めると同時に、右明渡の契約は被控訴人において他の事由による明渡請求権を抛棄する趣旨を含む和解契約であるから、賃貸借の終了等を原因とする本訴第一次の請求はこの点において既に失当であると主張するけれども、原審及び当審証人高柳照良の証言並びに原審における共同被告田中今乃(第一、二回)、控訴人及び被控訴人(第一、二回)各本人尋問の結果を総合するも、本件建物の明渡につき控訴人主張のような趣旨で和解契約の成立したことを肯認し得る資料なく、却つて昭和二十八年八月二十日頃控訴人とその妾田中今乃(原審共同被告)との間に別れた話が持上つたのを機会に、高柳照良の斡旋で被控訴人から、同年九月十日までに立退くことを条件に、金二十二万円の立退料を提供すべき旨の内諾を得ていたが、右期日までに他に移転を肯んじなかつたため、遂に効力を発生せずに解消した経緯を認め得るに過ぎない。従つてこの抗弁も採用の限りでない。

これを要するに、結局控訴人田原に対する被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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